川内村住民による原発事故後の地元コミュニティをめぐるライフ・ヒストリー。2011年福島第一原発の事故は放射能汚染などのハード面のみならず、既存のコミュニティというソフト面にも甚大な被害を及ぼした。福島県川内村は、事故現場から20~30km圏内に位置し、住宅損壊に加え放射能という「不可視」な脅威によって多くの住民が避難を余儀なくされた地域である。川内村コミュニティは放射能汚染と住民避難によって農業などの生業への影響、同居していた家族の分裂に追いやられるといった危機を経ながらも、すでに半数が帰村しコミュニティは新たな地平を築きつつある。原発事故後の人々のライフ・ヒストリーから地元コミュニティに対する葛藤を描写する本書は、一枚岩では語ることのできない多様な「被害」の実態と地元コミュニティをめぐる人々の動態を描く、渾身の労作である。