佐多良平は桜島を前に、春日美佐との三十年前のできごとを思い出していた。まもなく五十歳になろうとしていたふたりは、かつて愛し合っていた恋人どうしだった。しかし、良平は東京の大学の医学部に進学し医者の道を歩むことを選び、美佐もまたこの土地で学校の教師として生きることを選択した。すでに別な相手と家庭を持っているふたりは、良平が鹿児島の学会に出席するのをきっかけに再会したのだ。後悔はない。しかし、あの時君を手放さなかったら......。美佐の思いもまたいっしょだった。燻ぶった火山のような壮年の男女の恋のゆくえは......。